パティシエ、大学進学、起業——。お菓子づくりを楽しみながら、自分らしい進路を選べる「ネクストパティシエプロジェクト」が誕生

製菓コースリニューアル案内

製菓技術と人間力を育んできた飯塚高校の製菓コースが、この春リニューアル。現役パティシエによる専門指導と充実した設備を生かし、進学やビジネスなど多様な将来にも対応できる「お菓子づくりを楽しみながら、興味のあるほかの学びも選べる場(ネクストパティシエプロジェクト)」へと進化します。お菓子づくりの楽しさを大切にしながら、社会で活躍できる力を育てたい——そんな想いを込めた新たな挑戦が始まります。コース長の林田英二先生に、リニューアルの背景や新コースの特徴、生徒たちへの期待についてお話を伺いました。

製菓コース長 林田英二先生

製菓コース長 林田英二先生

製菓コース立ち上げ翌年から20年にわたり、指導を行ってきた製菓専門教員。高校卒業後、中村調理製菓専門学校 製菓技術科 第1期生として製菓の基礎を習得。地元のケーキ店やホテル日航福岡などで10年の実務経験を経て、飯塚高校へ着任。現場経験豊富なパティシエとして専門技術の指導にあたる。

これまでの指導のもと、多くの生徒がコンテストで成果を上げ、2024年秋に開催された「第17回スイーツ甲子園 高校生パティシエNo.1決定戦 Supported by 貝印」では見事優勝。2009年・2022年に続き、3度目の日本一に輝いた。4年連続・通算10回目の全国大会決勝進出という圧倒的な実績は、林田先生の丁寧かつ実践的な指導力の証。お菓子づくりの楽しさを土台に、生徒一人ひとりが技術だけでなく、「人としての成長」も大切にする教育スタイルが、多くの生徒に支持されてきた。

お菓子づくりを楽しく学べる環境で、幅広い進路選択も叶えていきたい

——まずは先生が飯塚高校に来られた経緯を教えてください。

現場で10年ほどパティシエとして働いていた頃、飯塚高校の製菓コースから「パティシエを育てたいので力を貸してほしい」とオファーをいただきました。最初は驚きましたが、「旧長崎街道、シュガーロード沿いにあるこの飯塚高校から、全国や世界で活躍する生徒を育てることができたら、自分自身の成長にもつながるのでは」と考え、教員としての道を選びました。

——パティシエとしての実務経験を持つ方が高校で教えるというのは、非常に珍しいことのような気がします。

私が着任した当時は28〜29歳でした。現役世代のパティシエが常勤教員として高校で指導するケースは少なく、非常勤で引退後の経験者が教えることが多いです。その点、私たちの環境は、現場のリアルな技術をそのまま生徒に伝えられるという強みがあります。

——それから20年、製菓コース及び製菓部は、大きく躍進し続けてきました。分かりやすい例でいうと、「スイーツ甲子園」で2009年・2022年・2024年と3度の優勝、4年連続・通算10回目の全国大会決勝進出し、有名企業とコラボするなど、華々しい結果を残し続けています。そんな中、コースがリニューアルすることになった背景を教えてください。

製菓コースは2005年、嶋田吉勝 理事長がドイツで学んだデュアル教育システム(実践と学問の融合)をベースに誕生しました。かつて石炭産業で栄え、お菓子文化も根づいている飯塚という地域性を生かし、飯塚ならではの特色あるコースとして多くの生徒の支持を集めてきました。

ただ、時代の流れとともに、生徒たちの将来に対する考え方が少しずつ変わってきたのも事実です。製菓コースと聞くと「お菓子の道に進む人のためのもの」と思われがちですが、実際はそうではありません。

お菓子づくりを楽しみたいという気持ちと同時に、「大学にも進学したい」「経営や商売の知識も身につけたい」「将来の選択肢を広げたい」といった思いを持っている生徒も増えています。

実際、在校生・卒業生の中にはスイーツ甲子園で日本一に輝いた生徒もいれば、有名パティシエの店に就職する子もいます。一方で、大学進学やネット販売を始めるなど、製菓以外の道へ進む卒業生も増えており、進路は本当に多様化しています。

平均すると、学年にもよりますが、全体の約半数の生徒が製菓や食に関連する進路を選んでいます。たとえば製菓・調理の専門学校やパン・ケーキ店などへの就職。また、大学に進学して管理栄養士や教員を目指す生徒もいます。中には国語の教員になった生徒もいました。

こうした多様なニーズに応えるべく、製菓コースはより柔軟に、生徒一人ひとりの進路に合わせて進化する必要があると感じました。

新・製菓コースなら、大学受験対策やビジネスの学びも取りに行ける

——具体的にはどのように進化したのでしょうか。

新しい製菓コースは、実践的で楽しいお菓子づくりの実習はそのままに、進学や就職、経営など、将来の希望に応じて幅広く学べるカリキュラムへと進化しました。

これまでは国家資格である製菓衛生師取得のための学びが必須でしたが、資格取得にこだわらず、生徒の興味や進路に合わせて柔軟に学べる仕組みに変更しました。

製菓コースは総合学科のひとつとして設置されています。希望すれば他のコースの授業を選択することができ、逆に他コースの生徒が製菓の授業を受けることも可能です。コースを越えた学びを通して、自分の興味や関心を深めることができます。

また、飯塚市での地域活動や商品開発、常設ショップ「プチフル」での販売などを通じて、実践的なビジネススキルを身に付ける機会も設けています。こうした取り組みにより、生徒たちは将来の選択肢をさらに広げることができます。

実習時間や内容はこれまでと変わらず、専門性の高さを維持しています。設備面でもこだわっていて、オーブンや冷蔵・冷凍庫はすべて店舗レベルのものを使用。実習台も大理石製で、各班が同じ条件で作業できる環境が整い、放課後なども自由に練習が可能です。

指導体制は、私を含めた製菓専門教員3名。うち2名は製菓コースの卒業生で、ケーキ店などでの実務経験を持っています。現場の感覚を大切にした実践的な指導ができることも特徴です。

——指導にあたり、これまでもこれからも変わらず大切にしていることはありますか?

一番は「安全・安心」です。食品を扱う以上、衛生管理は基本中の基本。たとえばコック服の着方や爪の手入れ、手洗いの徹底など、基本的なルールを繰り返し教えています。「それができていないと、お菓子はつくれないよ」と常に伝えています。

もうひとつ、お菓子づくりを通して育てたいのは「社会に出て通用する力」です。技術だけでなく、笑顔で挨拶ができること、素直な姿勢、整った身だしなみ、約束を守るといった社会人としての基礎力も含めて指導しています。

お菓子は人を喜ばせるもの。つくる側に思いやりと丁寧さがなければ、本当の意味で相手には伝わりません。だからこそ、技術指導と同じくらい「人としての成長」を重視しています。この信念はこれまでもこれからも変わりません。

——人間教育と専門技術を兼ね備えた新しいコースが始まるのですね。今後、生徒たちにどんなことを期待していますか?

製菓コース卒業後にどんな進路を選ぶとしても、「自分の道を切り拓く力」を持つことが大切です。お菓子づくりを通じて、人間力を高め、社会で活躍できる力を身につけてほしいと思っています。

生徒一人ひとりが自分の夢を描き、その実現に向かって成長していけるよう、私たちも全力でサポートしていきます。

——新コースが生徒たちにとって、未来への扉を開く大きなステップになることを感じます。最後に、今後の展望をお聞かせください。

新しい製菓コースでは、より多様な進路に対応できるよう、実習や学問の内容をさらに広げていきます。お菓子づくりを楽しみながら学び、将来に役立つ力も身に付けていける、そんな環境をつくっていきたいと思っています。

飯塚高校の製菓コース改革は、「お菓子づくりを通じた人間教育」と「進路の選択肢を広げる学び」を実現する、新たなチャレンジです。

将来の夢がまだ決まっていなくても大丈夫。「パティシエになりたい」「お菓子が好きだけど他の道も考えている」——いろいろな思いを持つすべての生徒に応えられる環境を目指しています。

お菓子づくりを通して、「生きる力」を育てていきましょう。

——ワクワクするお話をありがとうございました!

製菓の専門的な実習を通して、確かな技術と知識を楽しく身に付けながら、進学に役立つ学問や経営の基礎、社会人として必要なスキルも得られる新しい製菓コース。お菓子の道に限らず、そこで得た学びを生かして多様な進路へと羽ばたくことができます。お菓子づくりという“好き”を軸に、自分らしい未来を柔軟に切り拓ける環境がここにあります。

※記事内容は取材当時(2025年8月)のものです。