教育とDIYが出会った日──商店街から広がる未来地図【飯塚高校×グッデイ 連携記念対談 前編】

飯塚高校とホームセンター「グッデイ」は2025年7月、「DIYによる教育連携および地域貢献活動に関する協定書」を締結しました。本校の教育資源とグッデイのDIY・空間づくりに関する知見を掛け合わせることで、生徒の創造力や課題解決力を育み、地域課題の解決に貢献し、地域社会との共創による持続可能な学びの場をつくることを目指しています。
具体的な取り組みがスタートしたことを記念し、グッデイ代表取締役社長の柳瀬隆志さんと本校 常務理事/校長補佐・嶋田吉朗(以下、敬称略)との対談が実現しました。前編ではおふたりに両者の縁と協定締結までの歩みについてお話しいただきます。
プロフィール
柳瀬 隆志(やなせ たかし)
東京大学経済学部卒業後、2000年に三井物産入社。2008年より家業である嘉穂無線(現グッデイ)に入社。営業本部長・副社長を経て2016年、嘉穂無線ホールディングス及びグッデイ代表取締役社長に就任。ゼロから組織のDX化を主導し、2022年6月に開催された第1回「日本DX大賞」の「大規模法人部門」にて初代DX大賞を受賞。著書『なぜ九州のホームセンターが国内有数のDX企業になれたか』(ダイヤモンド社、2022年、酒井真弓氏との共著)は大きな話題に。
嶋田 吉朗(しまだ きちろう)
学校法人嶋田学園常務理事、飯塚高等学校校長補佐。ICT・グローバル教育・地域連携・大学連携等を統括。「ヲソラホンマチ」を中心に飯塚市の旧市街活性化に従事し、本校の「街なか学園祭」を主導。社会学者としても活動し、関西大学客員教授および経済・社会研究所非常勤研究員。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(社会学)。主著に『地方経済人の結社と市民社会』(大学教育出版、2023年、日本NPO学会賞奨励賞を受賞)。
飯塚市商店街がつないだ、深い縁

嶋田:本日は対談の機会をいただきありがとうございます。柳瀬社長と初めてお会いしたのは、飯塚高校サッカー部が全国大会に初出場した2022年のことです。当時、私は企業協賛を集めるために多くの企業さまを訪問していました。
寄付をお願いするだけではなく、全国大会出場という話題性を生かして、これまでご挨拶できずにいた方々とつながる機会にしたいと思っていたんです。その流れで、ある方のご紹介で柳瀬社長とお会いすることになりました。
柳瀬社長とは同じ高校(※)のOBで、学年は重なっていませんが、以前から活躍されている先輩として存じ上げていました。いつかお話しできればと考えていたこともあり、ご紹介いただいたときは「この機会に何かご一緒できれば」という思いが強くありました。
※久留米大学附設高校。福岡経済界を率いる若手リーダーを数多く輩出する学校として知られ、柳瀬社長は1995年卒、嶋田常務は2007年卒。
柳瀬:そのとき、飯塚高校が2022年から飯塚市商店街で「街なか学園祭」をしていることやそのほかの地域活動について聞き、こんなに面白い取り組みをしている学校があるのかと感動しました。
嶋田:あの日は商店街の思い出話で大いに盛り上がりましたよね。かつての賑わいと、今の少し寂しい状況。そして、学校として商店街を盛り上げたいという私の思いを語り合えたことが、現在のつながりに発展するきっかけになったと思います。
柳瀬:私は子どもの頃からこの商店街と深い縁があり、長期休みにはここに泊まり込んで過ごしたこともあります。このあたりで1年近く暮らしたこともありましたし、母が毎週土曜日に飯塚を訪れていたので、そのたびについて行くのが習慣でした。幼少期には、現在のヲソラホンマチの場所にあった井筒屋の玩具売場によく遊びに来ていて、商店街での思い出は数えきれません。
久しぶりに戻ってきたとき、以前より人通りが減っているのを見て、商売や町づくりには変化への対応が欠かせないことを痛感しました。幼い頃から、両親の商売を手伝いながら自然と町の未来や商売のあり方を考えていた経験が、今の私の経営観や地域への思いの原点になっています。
嶋田:嘉穂無線ホールディングスが飯塚にご縁があることは知っていましたが、柳瀬社長ご自身にここまで深い思いがおありとは知りませんでした。商店街との強い結びつきをお聞きしたとき、とてもうれしく感じました。
柳瀬:母方の祖父母が経営していた商店街の店舗で、サッカー部の選手たちが試合前に髪を切って気合いを入れる話を聞いたときは驚きました。協賛企業のサポートを受け、大事な試合の前に髪を整えるイベントをしていると知り、とてもいい取り組みだなと。
嶋田:そうやって私たちの活動を知っていただき、今年7月には「DIYによる教育連携・地域貢献に関する協定(★)」を締結することができました。ご一緒できることにご縁を感じていますし、本当にありがたく思っています。
★協定で進めていく4つのテーマについては、本対談企画コラボ記事「自分たちの手で、未来を描く」──学校と企業と地域がつながる、共創の舞台裏|ホームセンターグッデイ(グッデイnote)「第五章:これからの展望――協定の向こうにあるもの」に詳しく紹介されています。ぜひお読みください。
アートにDIY──企業・学校連携が生まれた背景

柳瀬:具体的な取り組みのひとつが「アーティストレジデンス(※)」です。
※2025年に商店街活性化のために発足した産学官連携プロジェクト。東京藝術大学関係者の支援を得て、2022年から飯塚市商店街で「街なか学園祭」を開催する本校、飯塚市シルバー人材センター(以下、シルバー人材センター)、飯塚商店街、グッデイをはじめとする中心市街地に縁のある企業も参加して始動。数ヶ月ごとに招かれる新進気鋭のアーティストが約1ヶ月滞在し、アートの力で商店街を盛り上げている
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嶋田:きっかけはアーティストたちと長年活動されている麻生和子さんからのお話でした。和子さんは以前から「アートを活用して飯塚の街に貢献したい」という思いをお持ちでしたが、実現の機会がなかったそうです。
そんななか、本校もお世話になっている飯塚商工会議所の会頭である麻生泰さんが、私たちの「街なか学園祭」など地域活性化の活動を和子さんに伝えてくださり、「この商店街や周辺地域にアートの力を生かせるのでは」とご提案いただきました。私たちが所有するヲソラホンマチや駐車場、和子さんの所有される古民家を移築してアート施設をつくる構想までありました。
ただ、学校が本業の私たちにとって、施設の運営や資金面には不安がありました。このプロジェクトを進めるには地域企業との連携が不可欠だと考えたとき、真っ先にお顔が浮かんだのが柳瀬社長だったんです。
柳瀬:泰さんとはイベント登壇などで年に一度ほど顔を合わせており、「飯塚をもっと良くしたい」というお言葉が強く印象に残っています。私自身も企業版ふるさと納税を通じて飯塚市に寄付をしてきましたが、十分に生かされないもどかしさを感じていたんです。そんなときに嶋田常務から声をかけてもらい、「これなら別の形で飯塚に貢献できるかもしれない」と思いました。

嶋田:ちょうどその頃、本日の対談場所としてお借りしているシルバー人材センターのショップ「休憩処 とまり木」がリニューアルオープンしたばかりでした(2024年9月)。同センターは、本校の地域活動を長年支えてくださる大切なパートナーで、社会意識の高いシニアの方々が多く在籍しています。
お話を伺うと、施設の改装はシルバー人材センターの皆さんがグッデイの資材や道具を使い、自らDIYで仕上げたとのこと。それを聞いて「ここでまたグッデイとつながる!」とひらめきました。
柳瀬:シルバー人材センターの皆さんとつないでいただけたことも、とてもありがたいご縁です。これまで私たちは主に店舗内でしか表現する場がありませんでしたが、高校という新しいフィールドで活動できるようになり、さらにシルバー人材という豊富な経験を持つ方々とコラボできる可能性も広がりました。
嶋田:シルバー人材センターには約700名が在籍されていると山上さんから伺いました。この規模感と皆さんが持つ多様な専門性やスキルを生かせば、地域と学校、企業の連携による新しいプロジェクトがさらに広がりそうです。
地元への愛着や多世代交流、地域と学校をつなぐ強い絆について、熱く語り合った柳瀬さんと嶋田。後編ではふたりの対話を通じて、寮のリノベーションから始まったDIY教育の具体的な取り組みやその知見を商店街活性化へと広げていく構想についてお届けします。
(後編に続きます)
※記事内容は取材当時(2025年8月)のものです。