ドイツから製菓教育に携わる教員6名が来校|製菓・グローバルコースが迎えた国際交流の一日

ドイツ・ハノーバーで製菓を含む食品分野の職業教育を担うBerufsbildende Schule 2(BBS2)から、製菓教育に携わる教員6名が4月23日に飯塚高校を訪問しました。
当日は、ネクストパティシエプロジェクト(製菓コース)の実習見学やデモンストレーション、国際探究プロジェクト(特進グローバルコース、以下グローバルコース)の生徒による通訳、卒業生の店舗訪問まで、半日を通じて多層的な交流が行われました。
当日の現場に立ち会った猿渡和則副校長、製菓コース 林田英二コース長、通訳を担当したマガラネス・レアナさん(2年生)。3名のお話をもとに、この一日が生徒たちにもたらしたものを振り返ります。
異なる強みを持つ生徒たちが、ひとつのチームになった日

当日朝、ドイツからの一行を迎えたのは、製菓コース2年生とグローバルコースの生徒たちでした。ウェルカムセレモニーでは、グローバルコースの生徒たちを代表し、レアナさんが学校紹介の日本語動画に英語訳を添え、訪問団に飯塚高校の特色を伝えました。
続く製菓実習では、生徒たちがドイツの伝統菓子「ギップフェリー」(アーモンドと香辛料を使った馬蹄形の焼き菓子)の制作に取り組み、訪問団の教員たちが生徒のあいだを巡回し、絞り方など細部の技術を一人ひとりに直接助言しました。

この日は、製菓コースとグローバルコース、双方の生徒が同じ場に立つ機会でもありました。専門技術を磨く生徒と、語学・国際理解を深める生徒が、それぞれの強みを生かしながらこの行事に臨みました。
「生徒たちが各々の強みを発揮し、互いに支え合いながら一つのチームとして動いていました。特定のコースだけが関わるのではなく、学校全体でこの機会を担っていたと感じています」(猿渡副校長)
林田コース長も、この光景に飯塚高校が掲げる教育目標GLI(Global、Local、Individual)の本来の姿を見たと振り返ります。
「コロナ禍以降、これだけ多くの方を学校にお迎えする機会はなかなかありませんでした。そのため、製菓コースにとっても、飯塚高校にとっても大きな意義のある一日になりました。グローバルコースの生徒が通訳として加わり、製菓コースの生徒、ドイツの先生方と、多様な立場の人々が交わる場となったことは、まさに本校が掲げるGLIを体現する取り組みだったと感じています」(林田コース長)
最初は外国人教員との距離感をつかみかねていた生徒たちも、教員が技術の手本を示すと自然と拍手や歓声が湧き上がり、急速に打ち解けていったといいます。
本場のドイツ菓子と出会った生徒たち
生徒たちのギップフェリー制作に続いて行われたのが、ドイツの教員による約30分のデモンストレーションでした。紹介されたのは、マジパンにバラの風味を加えて成形し、表面を砂糖でキャラメリゼするドイツらしい製法。日本ではマジパンを人形などの装飾に使うイメージが強く、食用として味わう菓子の主役に据える発想は、生徒たちにとって初めての出会いでした。生徒たちは工程の一つひとつに目を凝らし、興味津々で仕上がりを見つめていたといいます。

林田コース長は、本場のドイツ菓子に通底する姿勢をこう語ります。
「ドイツのお菓子は、本当に手間を惜しまない、一つ一つを無駄にしないというところがあります。生地もクリームも、一枚一枚を一つずつ丁寧に焼いて積み上げていくんです」(林田コース長)
その姿勢は、生徒たちが普段の実習で大切にしてきた丁寧さと響き合うものでした。生徒たちは、自らが手を動かしたギップフェリーと、教員のデモから学んだマジパン菓子、そして市販のドイツ菓子の試食を通じて、制作と味覚の両面からレポートを提出。机上の知識ではなく、身体と舌で本場を吸収する時間となりました。
その学びが象徴的に表れた瞬間として、猿渡副校長は休憩時間のある場面を挙げます。
「生徒たちは、これまでマジパンをそのまま素材として味わった経験がなかったのです。それを口にしたときに、友達同士で『美味しいね』と語り合う声が聞こえてきました。本場のドイツ菓子に触れたことの驚きが素直に表れていて、こうした機会でなければ得られない、普段の授業だけでは味わえない光景だと感じました」(猿渡副校長)
これまでフランス菓子に関心を寄せていた生徒のなかにも、ドイツ菓子への興味が芽生え、英語学習への意欲につながったといいます。世界の現場と直接出会うことで、生徒の関心は新しい方向へと広がっていきました。
コースを越えて、通訳として現場に立つ
製菓実習の場で、ドイツの教員と日本の生徒・教員のあいだに立ったのが、グローバルコースのレアナさんでした。フィリピン出身で、来日5年目。来日前は日本語をまったく学んでおらず、英語と母語で生活していたといいます。
通訳を任されると聞いたとき、レアナさんはどんな心境だったのでしょうか。
「日本語に訳すのがそれほど得意ではないので、間違えるのではないかと少し緊張しました。それに、製菓コースの生徒の皆さんとはこれまで接点がなかったので、どんな子たちだろうという緊張もありました。でも、新しいことに挑戦できること、いろいろな人に会えることのほうが楽しみでした」(レアナさん)

製菓の現場では、専門用語が次々と飛び交います。レアナさんは、当日配布された資料でクッキーの作り方などの用語を確認しながら臨み、訳がすぐに出てこないときには別の言葉に言い換えて伝えるという工夫で乗り切りました。
当日の通訳は主に、日本人教員からドイツ人教員への指示伝達が中心でした。生徒たちの発言が少ない場面でも、レアナさんは教員間の意思疎通を支え続け、終了後にはドイツ人教員から直接、感謝の言葉を受け取りました。
「『今日一日、通訳してくれてありがとう』と言っていただきました。先生たちにも、私が伝えたことがちゃんと届いているのが感じられました」(レアナさん)
普段、グローバルコースに在籍するレアナさんにとって、製菓コースの生徒と関わる機会は多くありません。しかし、この日の経験が次への意欲につながったといいます。
「この経験のおかげで、人前で話すことが少し楽になった気がします。これからも新しい人と出会いながら頑張って、スピーチや司会にも挑戦していきたいです」(レアナさん)
製菓コースの生徒たちと、ドイツの教員のあいだに立ち、日本語と英語を行き来した一日。レアナさんにとっては、専門用語に挑む経験であると同時に、人前で話す自信を確かなものにする時間にもなりました。
一日の交流が示した、これからのグローバル教育
ランチを挟んだ午後、一行が訪れたのは製菓コース第1期生・古賀隆一郎さんが飯塚市内で営む「PATISSERIE Doux(パティスリー ドゥー)」でした。古賀さんは卒業後、林田コース長のもとで実習助手を務めた時期があり、コース卒業生として最初に独立開業した先輩です。
「タルトを専門にされているお店で、見た目の美しさはもちろん、ケーキや焼き菓子を一つひとつ丁寧に仕上げている様子をドイツの先生方も感じ取っていらっしゃいました。『丁寧で可愛らしく、繊細に作られている』と評価されており、本校の卒業生が営む素晴らしい店をご案内できたと思っています」(猿渡副校長)
一日を振り返り、ドイツの教員からは、生徒の真剣な実習態度、衛生的で充実した実習設備、そして英語で一貫した歓迎の姿勢に対して、高い評価が寄せられました。

「ウェルカムセレモニーから最後のクロージングまで、生徒たちはお礼の言葉も含めて英語で対応しました。ドイツの先生方からは『ホスピタリティに触れて、歓迎されていると感じられ、とてもうれしかった』とお言葉をいただきました。生徒たちが心を込めてお迎えしたことが、何よりも印象に残ったのだと思います。言葉を超えて気持ちが伝わっていたのだと感じました」(猿渡副校長)
今後の連携については、ドイツから若手のパン職人を福岡に招き、数週間の研修を行う構想が出発点となっています。研修期間中に飯塚高校との連携枠を設けることが当初の狙いで、ドイツ側のスケジュールが固まり次第、具体的な関わり方を模索していく方針です。日本からドイツへの派遣についても、奨学金制度などの活用が検討されています。
今年度、飯塚高校は国際交流の対象を特進アカデミックコースとグローバルコースから、全校に広げる方針を打ち出しています。1年次にJICA九州を訪問するプログラム、外国人ゲストを招いた英語フリートーク、自動車専攻科向けに海外で活躍する技術者を招く講演会など、施策は多岐にわたります。
今回の交流は、製菓実習室の中だけで完結するものではありません。専門技術と国際感覚が交わる場をどう設計するか――飯塚高校のグローバル教育は、新しい局面に入っています。

