「街なか学園祭――関係の深化が生んだ新しい地域協働の形」(飯塚商工会議所 下原健司さん)

2021年に飯塚高校・飯塚商工会議所・飯塚市商店街連合会の三者で締結された連携協定。その後、商店街全体を舞台にした「街なか学園祭」は今年で4回目を迎えます。学園祭の主役はあくまで生徒たちですが、その挑戦が地域に根づき、地域の方々から応援される一大プロジェクトへと育っていった背景には、商工会議所の確かな支えがありました。
出店や展示に使える空き店舗の情報提供や調整、運営コストを下支えする各種補助金の活用支援、安全・衛生・騒音などへの配慮を含む現場環境づくり、さらに商店主と学校側の意向をすり合わせる合意形成など、多岐にわたるサポートを行っています。
加えて、会議所ならではのネットワークを生かし、タウンマネージャーとの連携や模擬店運営の実務に長けた事業者の紹介・マッチングを通じて、学業を本分とする生徒たちを無理なく現場へとつなげてきました。花火大会や地域イベントを長年手がけてきた経験から培われた運営ノウハウや出店者ネットワークも、学園祭を支える大きな力となっています。
こうした現場の司令塔として活動してきたのが、飯塚商工会議所 商工振興課の下原健司さんです。初年度から伴走してきた下原さんに、これまでの歩みと見えてきた変化、そして今後への思いを伺いました。
連携協定は「関係の深化」を予感させた

――飯塚商工会議所は2021年に飯塚高校、飯塚市商店街連合会と連携協定を結びました。この協定に至るまでの経緯、そして当時どのような思いでこの取り組みを受け止められたのかを改めて教えてください。
飯塚高校の創立60周年に向けてのお話がきっかけでした。商工会議所も商店街連合会もこうした形で学校と正式に連携協定を結ぶのは初めてのこと。私たちにとっても新しい挑戦でした。
ただ、飯塚高校とはもともと長いお付き合いがあります。飯塚市商店街でのプチフル(※)の営業や地域イベントへの参加、強豪部活動によるパレード、パブリックビューイングでの応援など、さまざまな場面で関わってきました。
特に本町商店街は飯塚高校発祥の地でもあり、学校と地域の結びつきはもともととても深いんです。ですから協定は、「心機一転して新しい取り組みを始める」というよりも、むしろ「これまで積み重ねてきた関係性をより深めていく」という意味合いが大きかったですね。
気持ちを新たに、地域とともに歩む決意を共有できたことが、協定の何よりの意義だったと思います。
※飯塚高校のネクストパティシエプロジェクト(製菓コース)所属生徒たちが運営するスイーツの常設店
――当時はまさにコロナ禍の真っ只中でした。そのタイミングでの協定締結には、どのような意味やインパクトがあったのでしょうか。
商店街にとっても本当に厳しい時期でした。そんな中で、飯塚高校と正式に協定を結び、地域活性化に向けて協力していただけることになったのは、私たち商工会議所にとっても大変ありがたいことでした。この取り組みをきっかけに活動の幅が広がり、関係がさらに深まっていくことを期待していました。
私は商工会議所に勤めて今年で30年になります。商店街を担当してからは、もう20年近く経ちます。飯塚高校の嶋田吉勝 理事長は商工会議所の副会頭でもあり、商店街の事業を視察していただく機会も多くあります。嶋田吉朗 常務理事とも顔を合わせるたびにお話をするようになり、飯塚高校と地域とのつながりがより一層深まっていきました。
嶋田学園が所有されている商店街の広場「ヲソラホンマチ」を活用したイベントなども活発に行われています。そうした信頼関係の積み重ねがあったからこそ、協定締結はごく自然な流れだったのだと思います。
飯塚高校は、まちの活性化に関わってくださっているだけでなく、「飯塚」という名前を背負って活動されています。その活躍や存在自体が地域のPRになっていて、本当にありがたいことです。
私自身も商店街のイベントにはできるだけ足を運ぶようにしていますが、そのたびに飯塚高校の生徒さんの活躍を目にします。若い人たちのパワーがまち全体に活気をもたらしてくれていて、本当に大きな力をいただいていると実感しています。
手探りで始まった1回目から見えた大きな可能性
――2022年に初めて「街なか学園祭」が開催されました。初年度の印象を覚えていますか。
2回目、3回目になると前回の状況を踏まえて動けますが、初年度はゼロからのスタートでした。前例がない中で、とにかく手探りで進めていくしかなかったと思います。先生方にとっても初めての試みで、頭の中で描いていたイメージと商店街の現場とではいろいろと違いがあったはずです。実際に動いてみることで「ここはこうすればよかった」「思っていたよりうまくいった」といった発見や課題がたくさん見えてきたでしょうし、それだけに本当に大変だったはずです。
それでも、ふたを開けてみれば想像を超える来場者数となりました。保護者の方々はもちろん、地域の皆さんも多く訪れてくださって。2日間の開催でしたが、あれほど商店街がにぎわったのは本当に久しぶりで、驚いたものです。単発のイベントでもある程度の人出はありますが、その比ではありませんでしたね。街なか学園祭には大きな可能性がある——。そう強く感じた初年度でした。
常務理事をはじめ、先生方のご苦労も相当なものだったと思います。通常は校内行事が中心のところを、全校生徒を引き連れて、商店街全体を使ってイベントを一からつくりあげるわけですから。本当に並大抵のことではありません。それでも、あの規模でやり切られたのは先生方のご尽力の賜物だと思います。
全国的に見ても、学校の外に出て商店街全体を会場にする学園祭というのはとても珍しい取り組みです。飯塚でそうした新しい挑戦が生まれたこと、そしてそれを通して飯塚という地名を全国に発信できたことは本当に誇らしく、私自身も心からうれしく感じました。

――それから3年連続で開催されてきた街なか学園祭ですが、2回目、3回目と続く中で感じられた変化や手応えはありましたか?
やはり、生徒さんも先生方も年々、商店街の雰囲気や動きに慣れてこられたと感じます。これまでのノウハウを先輩や先生方から聞いているのか、初めて参加する生徒さんでも「どう準備すればいいか」「どんな場所を使うのか」がある程度イメージできているように思います。回を重ねるごとにスムーズさが増してきていますね。
また、街なか学園祭の大きな特徴は、飯塚高校だけで完結せず、近畿大学や福岡大学といった近隣の大学、飯塚高校と協定を結ぶ大学の学生さんも参加していることです。そうした少し年上の大学生と交わることで、生徒さんの意識も変わってきたように感じます。毎年「来年はこうしたい」「次はもっと良くしたい」という前向きな提案が増え、イベントそのものが着実に進化しています。
もはや学校行事という枠を超えて、「地域のイベントを自分たちがつくっている」という自覚を持って取り組んでいるように見えます。今では飯塚市の秋の恒例行事として定着し、地域の方々からも「今年はいつ開催するの?」と聞かれるまでになりました。多くの方が楽しみにしてくださっているのを実感しています。
――続けてきたからこそ、地域に根づいたイベントになったわけですね。
本当にありがたいことです。続けてきたことで認知度が少しずつ高まり、今では「飯塚高校があること自体が地域の誇りだ」と感じてくださる方も多いように思います。
商店街のパレードや部活動での活躍もそうですが、街なか学園祭のようにまちの中で大勢の生徒さんがきびきびと動く様子を間近で見ると、地域の方々は改めて「飯塚高校ってすごいな」と感じられるようです。
映像やニュースでは伝わりきらない、生徒さんたちの一生懸命な姿に触れることで、地域全体の誇りや一体感が高まっている、そんな手応えを感じています。
若い力が商店街に新しい風を吹き込んでいる

――街なか学園祭は年に一度の特別なイベントですが、その取り組みが日常の商店街やまちの活気にも影響を与えていると感じますか?
そうですね。学園祭のときには、商店街の空き店舗を学生さんたちに活用してもらっています。実はそれがとてもよいPRになっていて、こんな場所があるんだと知ってもらうきっかけになっているんです。その結果、自分もここでお店を出してみようかなという方が現れて、入居につながるケースも出てきています。
もともと空き店舗の活用を進めることも目的のひとつですから、イベントを通じてそうした動きが生まれているのは本当にうれしいですね。ここ数年で空き店舗の数はかなり減ってきていて、むしろ「次の街なか学園祭で生徒さんが使える場所を探すのが大変になってきた」という状況です。
しかし、それは地域が元気になっている証拠でもあります。街なか学園祭は年に一度の行事にとどまらず、商店街に新しい風を吹き込み、まち全体に活力を与える大切なきっかけになっています。
――商工会議所として関わっている地域の中小企業の方々からは、学園祭についてどんな声が寄せられていますか?
最初のころは、「高校生が主体となって頑張っているイベントなんだな」という認識の方が多かったんです。でも、タウンマネージャーさんなどを通じて学生さんたちの活動の様子を知るうちに、「あれだけ一生懸命やっているなら、自分たちも一緒に盛り上げたい」「学生だけで終わらせるのはもったいない」といった声が増えてきました。
今では、商店街や地域の事業者さんのほうから「うちも協賛したい」「一緒にコラボしたい」と相談をいただくことも多くなっています。学園祭という名称ではありますが、実際にはもう地域全体のお祭りのような存在になってきています。
生徒さんが主体となりながら、地域の企業や商店主の方々を自然と巻き込んでいく。そんな良い循環が生まれているようです。
街なか学園祭を長く続く飯塚の文化に

――飯塚高校の生徒たちは、商店街での活動を通してさまざまな形で地域に関わるようになっています。6月には地域活動を主体的に推進する生徒組織「まちLabo」も発足し、土曜マルシェの運営にも携わるようになりました。今後、飯塚高校にどんなことを期待されていますか?
若い方の発想や感性で商店街を盛り上げていただけるのは、本当にありがたいことです。商店街の店主はどうしても年齢層が高くなっていますから、若い方ならではのアイデアや視点というのは私たちとはまったく違うんですね。そうした新しい考え方を取り入れていくことで、商店街の運営をより持続可能なものにできると思っています。
土曜マルシェでも、生徒さんたちが関わるようになってから新しいお店が出店されたり、新しい企画が生まれたりしています。まさにイベントそのものが進化しているんです。お客さまの層も少しずつ若返っていて、「最近は人が増えたね」という声も聞くようになりました。同じことを続けているとどうしてもマンネリ化してしまいますが、生徒さんが運営や企画に入ることで、そこに新しい風が吹き込まれています。
これからも、飯塚高校の皆さんにはその柔軟な発想と行動力で、地域に新しい刺激を与え続けてほしいと思います。彼らの関わりが、イベントだけでなく、商店街そのものを未来につなぐ大きな力になっていると感じています。
――最後に、今後への思いをお聞かせください。
街なか学園祭は、まちにとって本当に大切なイベントです。地域の皆さんにも喜ばれていますし、商店街の関係者にとっても非常に貴重な取り組みだと思います。こうして毎年継続できていること自体が、すでに大きな成果だといえます。
イベントを続けることは決して簡単ではありません。私たちもこれまでにさまざまな催しを行ってきましたが、そのたびに新しい関係者を巻き込み、内容をブラッシュアップし、リニューアルしていくには多くの努力が必要です。先生方や生徒の皆さんも、その裏で大変なご苦労をされていると思います。
それでも、この街なか学園祭をこれからも続け、さらに発展させていってほしいと心から願っています。商工会議所としても、まだまだお手伝いできることがあるはずです。人手不足といった課題はありますが、このイベントがより盛大に、そして長く愛される催しとして根づいていくよう、これからも全力でご支援していきたいと思います。

