「地域を舞台にした実践的な学び場で、生徒がまちを動かす。その豊かな活動を応援したい」(筑豊クラフト合同会社 代表 山中大輔さん)

筑豊クラフト合同会社 代表 山中大輔さん

飯塚高校が飯塚商工会議所や飯塚市商店街連合会と主催し、飯塚市商店街で開催する「街なか学園祭」。秋恒例の一大イベントとなったこの学園祭は、地域の人々や企業、行政などを巻き込み、まち全体の連携を加速させてきました。第1回目の2022年から、関わっていただく企業や個人が年々増えています。

2024年から運営をサポートいただくようになった、飯塚市でクラフトビール・シェアハウス事業を営む筑豊クラフト合同会社 代表の山中大輔さんもそのひとりです。火気・電源・衛生・人流といった安全管理の巡回、備品や機材の搬送、各クラスへの支援や企業とのマッチングなど、準備期間からイベント終了までを一貫して支援していただいています。9月には外部講師の一員として、学園祭準備に向けた授業をしていただきました。

本校の生徒たちが「自分たちで考えて動く」力を発揮できる背景には、こうした地域の企業や人々の支えがあることは間違いありません。まちと学校が手を取り合いながら「学びと実践の場」を育てていく中で、まちづくりと教育が交わる素晴らしい連携ができています。

ここでは山中さんに、地域での活動や学園祭での関わり、そして地域とともに描くこれからの展望について伺いました。

「子どもたちの学び場をつくりたい」から深まった、地域とのつながり

――地域に根付いた会社を立ち上げるまでの背景を教えてください。

最初のきっかけは、子どもたちのためでした。もともと地域の「おやじの会」やPTA、商工連合会など、さまざまな活動に関わっていました。そんな中、コロナ禍で学校行事や地域活動ができなくなった時期に、「子どもたちが安全に集まれる場所をつくりたい」と思ったんです。

そこで始めたのが「畑サークル」のような農業コミュニティでした。耕作放棄地となった土地をお借りして、子どもたちと一緒にホップやマコモダケなどを育て始めました。土を触りながら季節や食べ物のことを学び、地域の人と交流する。そういった「屋外の学び場」が、さまざまな制限のあった当時はとても貴重でした。

同時期に、農家さんとまちの人とをつなげる活動にも取り組んでいました。コロナの影響で飲食店の売上が落ち、農家さんの生産物も出荷先がなくなっていた時期です。何か力になりたいと考え、地元の農産物や飲食店のスープなどを預かり、軽トラを使って販売する「軽トラマルシェ」を企画・運営していました。

こうした取り組みを重ねる中で、「使われていないけれど可能性のある場所や資源が地域にはたくさんある」と気づいたんです。空き家や空き店舗、休耕地などは、少しの工夫で人が集まる場所に変わる。そうした発見や筑豊エリアを元気にしたいという思いから、2022年に筑豊クラフト合同会社を創業し、地域の遊休資産を生かしながら、農業とシェアハウス事業の大きく2軸で、地域に根付いた事業を始めました。

現在は、筑豊で育てたホップを使ったクラフトビールの販売や商店街の空き店舗を使ったシェア店舗「街角セレクション シカクデパート」での出店や、若い世代を応援するシェアハウス「つむぎ」の運営など、飯塚市を拠点にした活動をしています。

イベントを安心安全に遂行できるよう「まちの裏方」としてサポート

――2024年からは「街なか学園祭」運営のご支援もしていただくようになりました。

商店街連合会や飯塚商工会議所の方から声をかけていただいたのがきっかけでした。商店街への出店や、まちづくり協議会の事務局長をはじめとして、いろいろな地域イベントの企画・運営に関わってきた経験を評価していただいたのかもしれません。

学園祭の主役はあくまで生徒たちです。私の役割は裏方として、生徒や先生方が安全に、そして安心して活動できるよう支えること。昨年は、現場で起こるさまざまな困りごとに対応しながら、全体を見渡して必要な部分を補うような動きをしていました。

たとえば、各クラスが出店や展示を円滑に行えるように物的支援を行ったり、必要に応じて管理者を配置したり、地元企業をピックアップしてマッチングをサポートしたりと、調整役としても関わりました。私の声かけにより数社の企業に協力していただき、生徒たちの企画と企業の取り組みがつながるコラボレーションも生まれました。長年、地元・飯塚で活動してきた知見やつながりを生かして、お役に立てたかなと感じています。

また、祭りの安全管理も重要な仕事のひとつです。火気やガス、発電機などは事故の危険があるため、巡回パトロールを行って安全面を確認。衛生管理のチェックや設備の搬送など、力仕事も含めてサポートしています。

先生方は授業や部活動など日常業務で多忙なため、重い機材を運んだり、前日準備に時間を割いたりするのは、負担が大きいことと思います。そこで私たちがトラックで輸送したり、備品を事前に揃えたりと、できる限りのお手伝いをしています。

こうした裏方の支えがあることで、生徒たちが安全に、いきいきと活動できる。そんな状態をつくることが自分にできる貢献だと思っています。

――おかげさまで大変助けられていて、学校側はとても動きやすくなっていると感じます。生徒たちをサポートいただく中で、感じたことがあれば教えてください。

全体のチームワークのよさと、自分たちで考えて動く力がある生徒たちだと感じました。準備や片付けなども、自分たちは今何をすべきかを考えて、責任を持って行動していることが伝わります。

賑やかに楽しみながらも、やるべきことはやる。そのメリハリが素晴らしいですね。机の片付けひとつ、調理の手順ひとつとっても「どうすればスムーズに進められるか」を考えながら仲間同士で声をかけ合っていて、自然な連携ができていました。

また、社会性を身につけている生徒が多いと感じました。多様なプロジェクト(コース)や部活動があるからか、考え方が柔軟で実践的な印象を受けます。大学生や専門学校生のような自立した雰囲気がありました。部活動での実績も豊富で、話題性の高い学校ですが、その根底には「自分たちで考えて動く力」がある。そうした力を育てている学校なんだなと、学園祭で関わる中で実感しました。

学園祭が飯塚市の認知拡大に寄与している

――地域で事業を営む方として、街なか学園祭が地域にもたらす影響について、どう見ていますか?

地域にとって、本当によい循環を生んでいると思います。たとえば「飯塚高校が中心になってこんなに盛り上がっている」という事実は、まちの誇りになっていますよね。飯塚という地名が国内外に広まることは、行政や地元企業にとってもプラスですし、もちろん飯塚高校にとってもポジティブな影響があると思います。

これまでの「勉強ができる学校」「部活動が強い学校」という評価に加えて、「地域を盛り上げる力のある学校」「まちに活力を与える学校」という新たなイメージも広がっていけばうれしいですね。

また何より、このイベントが地域の商店街で開催されている点にも、大きな意義があります。多くの学校では校内で完結する学園祭が一般的ですが、飯塚高校は違います。まちを舞台に地域の人たちと交わりながら行うのは、決して簡単なことではありません。

自分がイベント企画・運営をする側だからこそ、その苦労は非常によく分かります。安全面や運営面など、さまざまなハードルを乗り越えて、毎年パワーアップした学園祭を開催しているのは、本当に素晴らしいことだと思います。

だからこそ、地域に開かれた学校としての存在価値がある。生徒たちが地域の人たちと触れ合い、明るいコミュニケーションが生まれている光景を見ると、まち全体がどんどん活気づいていくように感じます。

つくる力は生きる力になる。農業から広がる豊かな流れ

稲刈り

――学園祭を通じて、学校と地域が深く連携し、まち全体が盛り上がっていく中で、地元に密着した企業として今後取り組んでいきたいこと、目指している展開について教えてください。

これからは、農業の分野により力を入れていきたいと考えています。今も若い世代を中心に活動していますが、みんな仕事を持ちながら関わっているので、限られた時間の中でどうすれば持続的に農業を続けていけるかが課題です。今年はお米づくりにも挑戦し、来年は生産量を倍に増やす予定です。やはり「食べ物を自分たちでつくる」というのは、とても強い力を持っていると感じます。

子どもの頃に畑でトマトを育てた経験があれば、大人になってからも「自分でつくってみようかな」と、つくることが選択肢に上がりやすくなると思います。そんな小さな成功体験が、自信や生きる力につながっていくものです。だからこそ、子どもたちや若い世代が自然に触れ、作物を育てる体験を続けられる環境を維持し続けたいと思っています。

挑戦している作物のひとつに、前出のマコモダケがあります。休耕田(耕作を一時的に止めている田)にとても向いている作物で、イノシシ被害も少なく、育てやすいんです。はじめは地域の高齢者の方々から「そんな珍しいものを育てて」と驚かれることもありましたが、今では「すごいね」「育て方を教えて」と声をかけていただくまでになりました。苗の育成をお願いし、私たちが買い取る仕組みもできつつあり、高齢の農家さんに新しい仕事が生まれるという好循環もできています。

飯塚の地域には、まだまだ豊かな知恵や技術が眠っています。若い世代が体力や発想を生かし、ベテランの方々が経験や技を伝える。お互いに補い合いながら地域の農業を続けていくことが大切です。すべてをひとりで背負うのではなく、コミュニティとして支え合いながら農地を再生していく。そうした協力の輪を、これからもっと広げていきたいと考えています。

——「何かを自分たちでつくる」というのは、生きていくうえで欠かせない力ですよね。飯塚高校でも今夏、生徒たちが自分たちの手で学生寮を再生するDIYの取り組みを行いました。街なか学園祭もまた、自分たちでつくりあげる活動の一種です。これからも、生徒たちや学校への温かなご支援・ご協力をよろしくお願いいたします。

(完)

山中さんのように、地域で行動し、知恵や経験を次の世代へつないでいく方は、生徒たちにとって生きた教科書のような存在です。街なか学園祭が、地域と学校を結ぶ学びと実践の場として広がっていく――その背景には、こうした大人たちによる多様な支えがあります。

耕作放棄地や空き家、空き店舗を人が集まる場所へと変えてきた山中さんの場をつくる取り組みは、学園祭での生徒たちの挑戦にも通じます。生徒たちは商店街の空き店舗を活用し、自らの手で地域に新たな賑わいを生み出しています。

地域と手を取り合いながら、生徒が主体となってまちに新しい動きを起こしていく――街なか学園祭は、そんな理想的な循環を生み出しています。