学校発DX|データ測定・活用基盤を共同開発

飯塚高校は2024年5月、文部科学省より「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」の指定を受け、データサイエンスを生かした教育プログラムの構築と実装を本格的に開始しました。
さらに2025年(令和7年度)には、同事業の中でも特に先進的な取り組みが求められる「重点類型:グローバル型」に選出されています。重点類型は、全国1,191校の採択校(2025年度データ)のうち20校のみが指定を受ける特別な枠組みであり、本校の教育構想と実践が高く評価された結果といえます。
本校では、この指定を制度活用にとどめることなく、「学校現場の課題から出発するDX教育」を軸に据え、教育の質そのものを高める取り組みへと発展させています。
その取り組みの中で、健康スポーツコースを中心に、フィジカル測定とデータ管理を一体化した新しい測定システム「Mobili」の活用が始まっています。現在は約120名の生徒が使用を開始するなど、全校展開に向けて段階的に運用を広げているところです。
Mobiliは、既製品ではありません。学校現場の課題を出発点に、起業家・大城祐介と本校が共同開発の形で磨き上げてきたデータ活用基盤です。
既存機器に留まらず、共同開発した理由
この取り組みの原点は、サッカー部でのフィジカルトレーニングにあります。
「サッカー部では以前からデータ測定を行っていて、その有効性は実感していました。これを授業や学校全体の取り組みに広げられないかと考えたのが始まりです」
そう語るのは、学校法人嶋田学園 飯塚高校 常務理事・校長補佐の嶋田吉朗です。
一方で、部活動レベルで成立していた運用は、学校全体に広げるとなると大きな課題がありました。
「サッカー部ではエクセルで管理していましたが、学校全体で扱うとなると、複数名の先生が管理する必要があります。さらに地域の小学校との連携プログラム(小学生のフィジカル測定およびデータ分析)も始まっていました。個人の身体データを扱う以上、管理体制やセキュリティの問題をクリアしなければなりませんでした」

もうひとつの課題は、測定後の作業負担でした。
「光電管で測定したタイムを手書きで記録し、エクセルに入力し、さらに整理してデータベース化する。何重もの作業が発生していました。これでは学校の取り組みとして広げるには手間がかかりすぎると感じました」
単に機器を入れ替えるのではなく、「学校の運用に合った仕組みそのもの」が必要だったのです。
そこで、DXアドバイザーであり起業家である大城氏と連携し、学校の課題を出発点に構想されたMobiliを教育現場で先行実証しながら、共に仕組みを高度化していく方針を取りました。
データ管理時間は「1週間から30分へ」
現在のシステムは、改良を重ねながら運用を進めています。時には測定がうまくいかない場面もあります。それでも活用を推進する背景について、嶋田はこう語ります。
「測定した瞬間にデータがプラットフォームへ送信され、授業で必要な形で取り出せる仕組みは、他に存在していませんでした。失敗があっても改良していくことが近道だと考えました」
完璧な状態になるタイミングを待つのではなく、使いながら改善する。それが学校現場としての現実的な判断でした。
「その時々で最適な形へ改善を重ねながら運用していますし、必ず良い面が現れています。だからこそ使い続けています」

実際に使用した生徒たちの反応は印象的だったといいます。
「走った瞬間に、目の前のスマートフォンに自分の名前とデータが表示される。それを見て『わぁ、すごい』という声が上がりました。特に、以前の手書き作業を覚えている生徒ほど、その変化を強く実感しているようで、データが圧倒的なスピードで集約されていく様子に驚いていました」
導入効果は、運用時間の面においても想像以上に大きなものでした。
「すべてがスムーズにいけば、30分の測定時間でそのままデータベースに反映されます。以前は、整理から入力、再整理まで含めて少なくとも1週間はかかっていました」
この時間短縮により、教員はデータ入力といった事務的作業に追われるのではなく、「データをどう教育に生かすか」を思考する本質的な業務に時間と力を注げるようになりました。
安全性を最優先にした設計
学校現場で身体データを扱う以上、安全性は最重要事項です。
「このプロジェクトは、データのセキュリティを最重視するところから始まりました」
各教員が個別にエクセルファイルを持つ状態では、管理上のリスクが生じます。しかし、厳重にしすぎて授業で活用できなければ意味がありません。
「安全性と利便性の両立が必要でした。そのため、専門的な知見を生かしながら、現場での活用を通じて運用設計を整えてきました」

本プロダクトを展開する大城氏も、未成年のデータを扱うことの重さを強く意識したといいます。
「これまで扱ってきたのは大人のデータが中心でした。未成年のデータを扱うことは初めてで、構想段階から慎重に設計しました」
匿名性を担保しながら、必要に応じて成長の変化を追える仕組み。そして、本人や保護者の同意を前提としたデータ活用。学校という場にふさわしい設計が、丁寧に積み上げられています。
地域とともに進化する、飯塚高校のDX教育
これまでの取り組みを振り返ると、本校のDXハイスクールの歩みは、まず校内での実践から始まりました。サッカー部でのフィジカル測定や授業でのデータ活用など、学校内でDXを積み重ねる中で、データを安全に管理し、教育に生かす仕組みの必要性が見えてきました。
その取り組みはやがて校外へと広がります。地域の小学校との連携を通じて、データを測定・分析・活用する循環を構築し、学校単体では見えなかった新たな課題や可能性も浮かび上がってきました。
そして、その過程で見えてきた課題を解決するために生まれたのが、今回の共同開発による独自システムです。
校内から始まり、校外へと広がり、さらに地域社会へと接続していく――。飯塚高校のDXは、次なる展開を見据えながら進化の途上にあります。
測定から始まったデータ活用の挑戦は、共同開発を経て新たな活用フェーズへと移行しました。これからは、その価値を現場で磨き上げながら、教育の可能性をさらに拡張していきます。

