九工大生が飯塚高校の探究学習を視察し、考察を発表|高大連携から生まれる新しい学びの形

飯塚高校では12月1日(月)、九州工業大学 教養教育院の「教職実践演習」を履修する学生および担当教授をお迎えし、大学生による発表会を実施しました(※)。
※本取り組みは、九州工業大学 情報工学部(以下、九工大)との連携授業とは別枠で行われた高大連携活動です
発表に向けて学生たちは、これまで本校が情報工学部と協働して実施してきた探究学習の授業を視察。それを踏まえつつ、「高等学校の学校外連携の課題と改善案」について考察し、今回プレゼンテーションとしてまとめ上げました。
本校では1年次の必修科目「情報Ⅰ」での取り組みを基盤に、2年次の「総合的な探究の時間」でより発展的な学びへつなげる授業を展開しています。データ分析やシミュレーションなど高度な手法も取り入れながら、生徒の探究力を育んできました。
今回の発表会では、教職課程を履修する工業大学学生ならではの視点から、本校の探究学習を客観的に見つめた上で、それを持続・発展・拡大していくためのシステマティックな提案が示されました。これらは未来の教員を目指す学生にとって大きな学びとなると同時に、本校にとっても授業改善や探究学習の質向上に直結する貴重な機会となりました。
4グループからの提案と、飯塚高校教員からのフィードバック
学生たちは2〜3名ずつの4グループに分かれて、視察を出発点として考察した課題と改善策を整理し、発表を行いました。
どのグループも専門性や分析力を生かした提案となっており、本校教員も驚くほど現場の感覚に寄り添った指摘が多く見られました。
ここからは、各グループのプレゼン内容の概要と、発表会に参加した本校の小山貴大先生(特進コース長/2年1組・1年1組「情報I」授業担当)、角田武弘先生(情報科主任)によるフィードバックコメント、嶋田吉朗 常務理事/校長補佐、九工大 教養教育院 人文社会系 准教授・井口尚樹先生による総括を紹介します。
【グループ1】外部との連携を途切れさせない、次世代につなげるデータベースシステム
外部講師や協力企業との連携は、探究学習における大きな魅力のひとつです。その中で学生たちは、「担当教員が異動すると外部との関係が途切れてしまいやすい」という点に着目しました。
その課題を解決するため、講師や企業との連携履歴をスプレッドシートでデータベース化し、次の担当者へ確実に引き継げる仕組みを提案しました。
角田先生は、各学校での探究学習における問題点を鋭く捉えている点は目を見張るものがあると評価しました。
その上で、改善案として示された活動のデータベース化について、「さすが情報学部を有する大学の学生ならではの視点だと感じました」とコメント。
さらに、「そこに教育現場の分掌である学年団、進路指導部やキャリア教育委員会などの人的データベースを絡めることで、現場をより活性化させる要因になるのではないか」と、実際の学校運営を見据えた発展案も示しました。
【グループ2】オンライン学習の可能性と「自主性の壁」の課題
オンライン学習には、著名な専門家の講義を受けられるなど大きな利点がある一方で、動画教材に頼りすぎると「自主性に任せすぎて学習が進まない生徒も出てしまう」といった問題もあります。
学生たちはこの課題を「自主性の壁」と名付け、進捗管理や質問しやすいチャット環境、多様な学習課題へのアクセス設計など、生徒を支える「伴走の仕組み」が必要だと提案しました。
飯塚高校でも、映像講義からレポート提出までオンラインで完結できる「ZEN Study」を探究プロジェクト(特進コース)の数学授業(一部)で活用しており、オンライン学習の利点と、そこに潜む課題の両方を実感しています。
【関連記事】【N予備校(現:ZEN Study)連携授業】講師の小倉悠司先生に聞く「夏期特別講習と9月以降の取り組み」
これに対し小山先生は、どこまで教員が手を添え、どこから自主性に任せるかという線引きは、日々の指導でも常に課題になると話し、こうコメントしました。
「授業でも受験指導でも、基礎となる学び方は丁寧に教えますが、最終的には自分で練習を重ねて身につけていく必要があります。どの段階まで伴走し、いつ自主性に委ねるかの判断は簡単ではありません。その難しさを『自主性の壁』という言葉で的確に示してくれました」
【グループ3】海外留学の成果を見える化する構造化面接
学生たちは、本校の強みである交換留学制度に着目しました。飯塚高校は世界5カ国9校と協定を結んでおり、1年生のうちから積極的に留学へ挑戦する生徒も多くいます。ここ1〜2年は、留学を終えた生徒へのインタビューも継続的に実施し、個々の体験や学びを丁寧に記録してきました。
一方で、こうした個別の記録に加えて、留学前後でどのような力が伸びたのかを、より体系的に可視化できるデータが揃うと、学校としての指導や支援にもさらに生かしやすくなるという課題にも学生たちは着目しました。
そこで学生たちは、留学前後の能力変化を「構造化面接(※)」という手法で記録し、データとして蓄積・公開する仕組みを提案しました。これにより、留学を検討する生徒の不安を軽減、留学成果の可視化、事前・事後学習の充実といった効果が期待されると説明しました。
※あらかじめ設定しておいた評価基準や質問項目をベースに、手順通りに進める面接を指す。誰が面接官であっても一定の基準で評価できることが特徴です。
探究学習や学校全体の取り組みにおける評価の在り方という観点から、小山先生は、提案の着眼点を高く評価しました。
「授業でも学校の取り組みでも、その活動にどのような価値があったのかをどう評価するかは、常に大きなテーマです」と前置きした上で、「留学という経験を感想や個別事例にとどめるのではなく、評価の仕組みに目を向け、さらにデータとして残していく重要性に踏み込んでくれた点が非常に素晴らしいと感じました」とコメントしました。
【グループ4】探究学習の4類型化と講師マッチング「人材バンク」
学生たちはまず、探究学習が学校の目的や地域性によって大きく姿を変える点を整理しました。「進学重視/就職重視」「都市部/地方」の2軸で4類型に分け、飯塚高校の探究プロジェクトは「進学重視 × 地方」に位置づけられると分析。
その特性ゆえに、外部講師や多様な専門家と出会う機会が限定されやすいという課題を挙げました。その上で、有識者や専門家と学校とをオンラインでマッチングする人材バンクの構築という具体的な解決策を提案しました。
「地理的制約を取り払い、探究の質を高めるためのシステムを自分たちで開発する」という発想が光る提案でした。
角田先生は、探究学習用人材バンクという現実的な手法の提案に加え、プレゼンテーションにおけるデータ分析とその示し方のいずれもが非常に完成度の高いものであったと高く評価しました。
その上で、「この人材バンクを通じて、特に地方の学校において生徒が社会へと視野を広げるきっかけをつくることができれば、さらに意義深い取り組みになると考えます」と述べました。
さらに、「本校では、社会への扉を開く人材紹介の役割を常務理事が担っていますが、こうした仕組みは、公立高校をはじめとする多くの学校にとって大きな助けになるのではないでしょうか」と、他校への波及可能性にも言及しました。
すべての発表を通して学校全体の取り組みを俯瞰した立場から、嶋田常務は次のように総括しました。
「教職学生の目線で、本校が取り組んできた外部連携や探究学習を捉え直していただき、大きな刺激を受けました。先進的な教育活動への挑戦は、設備や組織体制、現場の先生方の捉え方、生徒の成果など、さまざまな要素との調整の中で成り立っています。そうした現場のリアルを想像しながら、実践的な視点を持って教育に関わろうとする学生さんが増えてくれることを期待しています」
九工大・井口尚樹先生からの総括
続いて、今回プレゼンを行った学生たちを日頃から指導されている、九工大 教養教育院 人文社会系 准教授・井口尚樹先生にもお話を伺いました。

井口先生はまず、今回の学生からの提案について「活動の効果をどのように測定し明確にするか、あるいは外部人材とのつながりの地域間格差をどう補うかといった、探究学習で現実に生じうる課題を学生が自ら見つけ、改善案まで踏み込んでいた点が評価できます」とコメント。
また、学生の提案が「授業の工夫」というミクロな視点だけでなく、活動を持続しやすくする組織的条件にまで踏み込んでいた点を評価し、「学生の抽象的なアイデアに対し、飯塚高校の先生方が現場の具体例を提示しながら視点を広げてくださったことが、学生の学びに大きく寄与しました」とも述べられました。
さらに、「学生にとって将来自身が担当し得る探究学習の具体的イメージが持てるようになり、自ら課題を発見して改善策を考え、肯定的なフィードバックを受けた経験は、将来『答えのない課題』に向き合う自信につながることでしょう」という成長の実感も語られました。
最後に井口先生は、「教育について抽象的に語るだけではわからない現場のリアルを知る貴重な機会となりました。大学を地域に開き、学生の地域意識を高める上でも重要な取り組みです。今後もぜひ継続していきたいです」と総括されました。
飯塚高校にとっての成果と今後の展望
今回の発表会で得られた最大の成果は、本校の探究学習における強みと課題を、外部の教育実践者の視点から客観的に把握できたことです。
提案された内容はいずれも実現可能であり、学校全体の学びの質向上に直結するものでした。本校で進めるICT活用とも親和性が高く、「記録を残して改善につなげる文化」を強化する大きな後押しにもなりました。
大学と高校がともに学び合い、未来の教育をつくり出す――今回の取り組みは、その新しい学びの形を体現するものでした。飯塚高校は今後も外部教育機関との協働を積極的に進め、生徒一人ひとりの探究心を育む教育をよりよいものへ進化させていきます。
【関連トピック】「大学連携」に関する記事はこちらから

