学校発DX|三者連携で歩行データを地域の健康に生かす

飯塚高校は、DXハイスクールの取り組みの一環として、2026年3月25日・28日、庄内交流センターにて、地域住民を対象とした「ウォーキング体験会」(以下、庄内プロジェクト)を実施しました。
庄内プロジェクトは、飯塚市・福岡県立大学・飯塚高校の三者が連携し、「歩行速度」という日常的な動作をデータとして可視化することで、健康づくりと教育の双方に新たな価値を生み出す取り組みです。
測定には、本校のDX教育の中で共同開発されたデータ測定・活用基盤「Mobili」を活用し、普通歩き・早歩き・両手上げ歩きの3種類の歩行を計測。参加者一人ひとりに適した歩行速度をその場で提示しました。
2日間で約60名の地域住民が参加し、本校からは特進コースやまちLaboの生徒たちが受付や測定、データ管理などの運営に主体的に関わりました。
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三者がフラットに動く現場と、大学との学びの接続
今回の連携は、行政・大学・高校がそれぞれ役割を持ちながら、フラットな関係でひとつのプロジェクトを進める形で行われました。飯塚市は会場の手配や地域への告知を担い、福岡県立大学は測定メニューの設計や健康指導を担当。飯塚高校は、生徒が現場での測定や運営を支えました。

役割は固定的なものではなく、当日は状況に応じて柔軟に動く場面が多く見られました。福岡県立大学 松浦賢長 理事・看護学部 教授が説明しているのを隣で聞いた生徒が、待っている参加者に自分から声をかけて案内する場面もあれば、市の職員が測定の指示を出す場面もありました。
測定種目にも、大学との連携ならではの知見が反映されています。両手上げ歩きは、松浦先生の授業内で検討されたもので、普通歩きと早歩きの中間の速度になりやすく、姿勢が安定することで、日ごとの体調差に左右されにくい再現性の高い測定が可能になるという特徴があります。大学の授業の中で生まれたアイデアが、地域での実証へとつながった形です。
「大学の専門的な知見が直接入ることで、公衆衛生の分野にも貢献できる可能性があります。行政としても地域の健康政策に生かすことができる。三者それぞれにとってチャレンジングな取り組みになっています」
そう語るのは、本校 常務理事・校長補佐の嶋田吉朗です。
こうした実践の土台には、本校と福岡県立大学が2025年度に締結した連携教育協定があります。この協定により、高校に通いながら大学の授業を受けることが可能になり、その学びは大学入学後の単位(事前取得単位)として認められます。
たとえば「One Health」の授業は全15回がオンライン動画で構成され、県立大学のキャンパスに通わず履修することができます。公共探究プロジェクト(特進教育医療コース、2026年4月新設)の生徒にとどまらず、幅広い生徒が高大接続の機会を得られる設計です。
今年度は、教育面での連携もさらに本格化していきます。年度内に1〜2回の測定実習を行い、福岡県立大学の教員を招いてデータに向き合う授業を設定する予定です。
測定の現場で生まれた、それぞれの手応え

測定結果はその場でフィードバックされました。歩行速度から距離を換算し、さらに庄内支所長の早野直大さんのアイデアで、会場から1kmほど離れた鳥羽公園の周回距離と紐づけました。参加者は「あの公園を何周歩けばよいか」が具体的に分かるため、自分に合った目標に向かって行動しやすくなります。
「個人的に興味深かったのは、年齢と歩行速度が必ずしも比例しないことです。高齢でも早歩きが速い方もいれば、比較的若くてもゆっくりの方もいる。やはり測ってみることには意味があると実感しました。また、繰り返し測定していくことで、たとえば気分や体調による変動が見えてくる可能性もある。継続することで分かってくることは多いはずです」
生徒にとっても、従来とは異なる学びの機会となりました。特進コースにおいて、データを通じて地域の方々を知るという経験はこれまでなかったものです。
「自分たちの手で街の方々のためになる測定ができるんだという、やりがいを感じていたようでした。生徒はよく動いていました。地域の中で活動を重ねてきた経験が、こういう場面で確かな力になっていると感じます」
この現場を支えたのは、学校発で開発されたデータプラットフォームです。Mobili共同開発者の大城祐介(本校DXアドバイザー、起業家)は、その設計思想をこう説明します。
「対象者や共有先、活用内容を入れ替えることで、さまざまなプロジェクトに応用できる構造にしてあります。今回は学校の代わりに飯塚市が主催し、共有先に県立大学の研究者が入りました」
システムがあることで、地域住民のデータを安心して生徒に扱わせることができた。それも、このプロジェクトが成立した大きな要因です。
校内から地域へ、そして社会へ

これまで飯塚高校のDXは、校内での実践を起点に発展してきました。そして今回の庄内プロジェクトにより、その取り組みは地域社会へと広がり始めています。
庄内エリアでは、早歩きの定期的な実施を部活動のような形で続けていく構想も飯塚市から示されています。松浦先生からも、継続的な測定を通じて歩行パターンと健康状態の関係を検証していく方針が示されており、研究と地域の健康づくりが並走する形が見え始めています。
庄内支所長の早野さんからは、次のようなコメントが寄せられました。
「庄内地区では、地域の活動団体や住民で構成するまちづくり協議会を中心に、地域活動が活発に進められています。今回、住民の健康と笑顔が元気な地域をつくるとの視点のもと、教育機関の皆様のご協力をいただき、ウォーキング体験会を開催することができました。福岡県立大学並びに飯塚高校の皆様、学生・生徒の皆様に深く感謝申し上げます。
この取組を通して、学生・生徒の皆様が『デジタルは住民の健康増進や交流促進に貢献する』ことを実感いただければうれしく思います。今後とも、産学官の連携により、効果的でご自身に合った歩行速度を実践するウォーキング体験会を継続してまいりたいと願っております」
行政・大学・高校、それぞれの立場から今回の手応えが語られる中、嶋田はこの取り組みの意味をこう振り返ります。
「ただデータに向き合うだけでなく、地域や大学といった外部の多様な方々と関わりながら学びを得ていく。社会に関わりながら先端的なことを学んでいるのが、今の飯塚高校らしいやり方だと思います」
測定から始まったデータ活用は、本校が大切にしてきた地域とのつながりの中に、健康や研究という新たな価値を加え始めています。学校発のDXは、いま、社会の中でその価値を実証し始めています。

