「書く」から「表現する」へ。10年目を迎えた、個性を磨く芸術書道

飯塚高校で3年生の芸術教科の選択授業として行われている「芸術書道」が、今年度で10年目を迎えました。今年度の書道選択者は、3年生の5クラスで過去最多の92名。
校内では生徒たちが日頃の学習・練習の成果を発表する「芸術書道授業作品展」が開催されています。特進校舎での第1期展示は終了しましたが、7月8日(水)から7月14日(火)まで総合校舎での第2期展示が、さらに夏季休暇期間を含む7月15日(水)から8月26日(水)までは該当クラスの校舎での第3期展示が予定されています。
書道部から始まった、10年の歩み

飯塚高校に書道の授業が生まれた背景には、書道部での活動の積み重ねがありました。芸術書道担当の新貝孝敏先生は、赴任した12年前に書道部を立ち上げ、部活動としてコンクールや大会への出品に取り組んできました。専門的な視点から一人ひとりの作品に向き合い、継続的に指導を重ねる中で、書道部の生徒たちは高文連主催福岡県揮毫大会への出場を果たし、秀作や優秀賞などの成果を収めてきました。
その2年後、新貝先生の「部活動の生徒だけでなく、より多くの生徒に書道の面白さや魅力を伝えたい」という思いから、芸術選択の一つとして書道の授業が始まりました。
始まった当初は、書道に対して「墨で汚れる」「字を書くのが苦手」「難しそう」といった印象を持つ生徒も少なくなく、音楽を選択する生徒が多かったといいます。
そんな中、校内展や街なか学園祭、1月の書き初め展など、作品を発表する機会が増えるにつれて、状況は変わっていきました。同じ部活動や親しい先輩の作品を目にした1・2年生から、「自分も書いてみたい」「こんな作品が作れるなら楽しそう」といった声が聞かれるようになったのです。
基礎を学んだ上で、自分らしく表現する

芸術書道は、小学校の「習字」や中学校の「書写」とは違います。授業は2コマ続けて行われ、前半の1コマでは、筆づかいや古典作品に学ぶ基礎を大切にしています。文字の形や線の出し方、筆の運び方を学ぶことで、書道の土台を身につけていきます。
そして後半の1コマでは、その基礎を生かした創作活動へと進みます。生徒自身が「どんな言葉を書きたいか」「どのように表現したいか」を考え、漢字、ひらがな、英語、絵、メッセージなどを自由に組み合わせながら作品をつくります。自分の思いや感性をどう表現するかを考える時間。それが、飯塚高校の芸術書道です。
新貝先生が授業で大切にしているのは、生徒自身が表現の方法を選び取ることです。授業では、筆の持ち方や紙の使い方にも決まりを押しつけません。「芸術で大事なのは、自分がどう表現したいか」という言葉の通り、生徒たちは筆をどう持つか、紙のどちらの面を使うか、あえてかすれを出すかなど、自分の表現に合わせて工夫を重ねていきます。
特に3年生でこの授業を行うことにも意味があります。部活動での経験、進路への思い、友人との関わり、これから迎える受験や卒業。高校生活の中で積み重ねてきた経験があるからこそ、作品に込められる言葉や表現にも深みが生まれます。新貝先生は「3年生という立ち位置は、生徒たちの持っている力を引き出す上で向いている」と話します。
作品展は学び合う場でもある

展示には、作品を「書く」だけではなく、「見てもらう」喜びもあります。作品展を通じて、生徒たちの中には「先生、(自分が書いた)作品を見に来てください」と伝えるなど、自分の表現を誰かに見てもらいたいという気持ちも芽生えているそうです。新貝先生は、そうした姿に「自分が表現したものを堂々と人に見てもらうことも、生徒の成長につながっている」と感じています。
同時に、展示は「人の作品を見る」ことで学ぶ時間でもあります。ほかの人の作品に触れることで、自分では思いつかなかった言葉の選び方や線の表情、余白の使い方に気づくことができます。新貝先生は、作品を見ることを通じて自分の感性や個性を磨いていくことも、芸術書道の大切な学びだと考えています。
それは、飯塚高校が掲げる教育目標GLI(Global・Local・Individual)のIndividualにも通じる学びです。一人ひとりの感性や経験を尊重し、自分らしい表現を探すこと。そして、他者の作品に触れながら、自分にはない視点や表現に気づくこと。芸術書道は、まさにその実践の場にもなっています。

今年度の作品展には、生徒だけでなく教職員有志も参加しました。参加した教職員は担当科目を問わず23名にのぼり、学校全体で書道を楽しむ雰囲気が広がっています。久しぶりに筆を持ったという林美穂先生からは、「自由に書いていいと言われると、逆に何か書いてみたいという気持ちになった」「展示してもらうと、次もやってみたいと思った」といった声も聞かれました。
授業を越えて広がる、書道との出会い

また今年度からは、3年生しか選択できない芸術書道の授業を受けられない1・2年生や教職員も対象にした「書道講習会」が新たに始まりました。特進校舎1階の理科室で月2回、15:50〜16:40の50分間開催されており、部活動に所属している生徒も、芸術選択で音楽を選んでいる3年生も、希望すれば参加できます。
6月の講習会には7〜8名の生徒が参加し、自分たちが書いた作品を教室に掲示していたそうです。講習会に参加した生徒は、今後の展示会に一般生徒の部として作品を出品できるようになる予定で、授業を選択していない生徒にも書道と出会う入り口が広がっています。
今回の校内展は、特進校舎1階、総合校舎1階の下足箱や階段周辺、保健室周辺など、校舎内を移動しながら展示されています。3年生の書道選択者92名に加え、希望生徒、授業担当者、教職員有志の作品も並び、多くの生徒・先生・保護者の方にご覧いただける内容となっています。
今後は、学園祭での展示や地域との連携にもさらに広がっていく予定です。昨年度は街なか学園祭の中で、飯塚市商店街にも作品を展示しました。今年度は、芸術書道選択の生徒たちと愛宕幼稚園の園児たちが、書道を通じて交流する企画も計画されています。新貝先生は、型にとらわれない小さな子どもたちの表現にも期待を寄せています。
10年かけて育まれてきた飯塚高校の芸術書道は、いま、授業の中だけにとどまらず、校内展示や講習会、地域との交流へと広がり始めています。生徒一人ひとりが自分の思いを表現し、互いの作品から学び合う時間は、これからも学校内外に豊かな広がりを生み出していきます。

